- 更新 1/11, 2020 -


「関連性評定に基づく質的分析」サイト

 葛西 俊治
 (元・札幌学院大学心理学部臨床心理学科教授)




平成2年になりました。この三月で大学を停年退職するため、大学サーバーにあるサイトなどを移設し更新中です。

 KH法を含む研究法に関連するサイトや解説は、主に修士課程の院生向けに蓄積してきたものです。札幌学院大学大学院臨床心理学研究科では、各院生にPCを支給しSPSSが使えるようにするなど、修士論文作成に向けたサポートを行ってきています。
 修士論文作成に関わる「心理学研究法特論」を長年担当してきた者として、そうした体制を作って来れたことは良かったと思います。特に、臨床心理士および公認心理師の資格取得に向けた学習・実習が山積し極めて多忙な中でも、院生ができるだけ誤りなく数量的ないし質的な分析が実施できるようにと心がけてきました。その一端が下記のような資料となっているわけです。(SPSSについての解説は載せてません)  ということで今後も、統計的分析ならびに質的な分析について学習される方のお役に立てばと願っています。
葛西俊治 (1/11,2020)


2019年、令和元年。KH法についての問い合わせ・質問はいろいろと寄せられていますが、感想としては、やはり川喜多二郎のKJ法について正確に学ぶ機会が少ない様子がうかがわれます。一言だけ説明をするならば「KJ法は、キーワードに基づく分類ではない」ということになります。
KJの著作を読み進めて、「…土の香りのする集約を…」といった説明に是非、出会って欲しいと願っています。(7/27, 2019)

KH法という名称について、誤解というか意図が伝わっていないことがありましたので一言付け加えます。関連性評定質的分析なのでKanrensei Hyoutei から「KH法」という名称が推測されますが、
KJ法・川喜多二郎+数量化理論・林知己夫の「Kawakita and Hayashi」から来ています。

かつて移動大学を実施していた文化人類学者の川喜多二郎は、仲間から「ケージェイ」と呼ばれていたので「KJ法」は自然な命名といえます。それにHayashiを付け加えたのが、KH法ということになります。
 KJ法は元来「発想法」のため、質的な分析をするためのカードの構造化は、場合によっては記述カードに書かれている内容から、大きく創造的に飛躍することがあります。KJ法は不明な異文化を、その人達の考え方に即して理解するために考え出された方法のため、単なる集約とは違うのです。しかし、そのために起きてしまう「飛躍」の部分は最小限にして、「内容の適切な集約」の範囲に留めておくこと。そして、林の数量化理論で分析できるような形(専門的には「束 lattice」)に集約しておくことで、数量化理論3類が使えるわけです。
   つまり、KH法とは、分析法の専門家のためにではなく、現場の研究者のために、聞き取りや観察に基づく記述を「適切に集約して数量化理論3類で分析する」ための考え方と手順をまとめたものです。

数年前に臨床心理学研究科を修了して臨床心理士となり、精神科領域の現場で働いているかつての教え子から、医療現場でのデータを集約して学会発表するためにKH法で進めている、という連絡がありました。医療現場では「データに基づく医療 EBM(Evidence Based Medicine)」の実践が求められているため、質的な分析は参考になるけれどもあまり重要視されないという傾向があります。そうした状況では、データの説明率となる数値を提示できることには大きな意味があります。

 質的分析という言葉そのものに私は特に関心はありませんが、数量的ではないデータを分析するニーズがあることと、それを数量的に提示する必要があること…。この二つを結びつけてくれる基盤を、日本の研究者・専門家である川喜多二郎と林知己夫が提示してくれたことに感謝しています。 (6/20,2016)





 2006年から、臨床心理学領域や看護学領域などにおいて、比較的少数の対象者あるいは一人しかいない特定の個人を対象とした質的分析法として「関連性評定質的分析 Relatedness Evaluation Qualitative Analysis」(略称 KH法)というアプローチを進めてきました。現在、約10数件の学会発表・修士論文においてKH法を用いた発表や研究が進められており、この質的アプローチの意義が明らかになってきています。
 逐語録やアンケートの自由記述欄などの言語的資料を対象として、そこに数量化理論三類を用いて(因子分析的な)軸を見いだすことを通じて解釈を行っていくというアプローチの有効性が示されてきたといえます。  
     
  1. 一名から数名程度など対象者が少ない場合にも用いることができる。  
  2. 100名を超えるなど多くの対象者についてのアンケート的調査にも用いることができる。  
  3. 言語的資料の「要約」における、意味内容の軸構造を見いだすことができる。  
  4. そうした軸構造を参照しながら、より的確な「解釈」を行うことができる。   
 グラウンデッド・セオリー分析 (Grounded Theory Analysis)は、木下による修正版(Modified G.T.)という発展形が出たことから、すでに次の段階に移行しつつあること、また、解釈学的現象学的分析 (IPA: Interpretative Phenomenological Analysis)は、イギリスの関連学会が15-20例以上のケースを含まない投稿論文は受け付けない姿勢であることから、少数事例の研究方法とはいえなくなりつつあります。また、15-20例という事例数は、適切な統計的手法を用いれば検定によって有意な結果を得ることも期待できる範囲にあるため、IPAによる質的研究とともに統計的アプローチの導入も視野に入れるべきともいえます。
 さて、KH法では、「a)言語的資料の適切な要約」という段階と、「b)軸構造を参照にしながらの解釈」という段階、この二つの段階を明確に分離しています。すなわち、a)その研究テーマに関連する多くの研究者が了解するだろう「事実の把握」を、「カード布置」という形式での要約として提起すること、b)そうした事実の把握に基づいて「仮説」を提起すること、を分けていることから、研究の二つの側面である「事実の把握」と「事実に基づく解釈」ができるだけ混交しないようにしています。
 
  *なお、KH法は当初、数量化理論三類とともに形式概念解析をも含めていましたが、数量化理論一類・二類(質的重回帰分析・質的判別分析)を行わない場合、形式概念解析は必須ではなくなっています。なお、言語的資料に基づくカード布置の構造が「束latice」という半順序構造であることは、三類による分析・形式概念解析ともに共通の条件となっています。
       
[English site]



「関連性評定質的分析による逐語録研究 ― その基本的な考え方と分析の実際 ―」
札幌学院大学人文学会紀要 第83号,61-100,2008 (pdfファイル)


◆ 分析の実際についての解説 ◆




 現行の数量的アプローチは統計的有意性検定を前提とするために、多く人々を対象とした調査や実験を必要とします。それによって、特定のテーマに関する平 均的で中心的で、いわゆる「一般的」な知見を得るわけですが、心理面接などの場や、様々な状況下にある現場では、「多数の無作為標本」を得るという統計学 の要請はほと んど不可能といえます。もし仮に、いわゆる「一般的」な知見が得られたとしても、それを様々な状況と要因によって多様である現場に適用するには、あまりに も一般的で抽象的に過ぎて、現実には役立たないことも多いといえます。

 方法論に関する以下の論文をご覧ください。 →[葛西:紀要論文サイト]




→ 



このサイトで紹介していく質的アプローチ KH法「関連性評定(に基づく)質的分析」は、従来、KJ法によって進められていた方法を理論的および 実際的技法の両面から見直すことによって組み立てられています。

  1. 逐語録などの主に言語的資料をカード化する。
  2. カード布置の第1段階
    1. 意味内容の極めて似たカードがあれば重ねておく。
    2. 意味内容のよく似たカードがあればそばに寄り添わせておく。
    3. そうした作業を進めていき、それ以上、重ねたり寄り添わせる余地がなくなった時点で、グループ形成の最初の段階を打ち切る。
    4. カードグループに、その内容を適切を表すラベルをつける。
  3. カード布置の第2、第3,…段階
    • ラベルがついたカードグループは、そのラベルで代表してあたかも一枚のカードのように扱う。
    1. 意味内容の極めて似たカードやラベルカードがあれば重ねておく。
    2. 意味内容のよく似たカードやラベルカードがあればそばに寄り添わせておく。
    3. そうした作業を進めていき、それ以上、重ねたり寄り添わせる余地がなくなった時点で、グループ形成を打ち切る。
    4. 形成されたカードグループに、その内容を適切を表すラベルをつける。
  4. カードのグループ形成とラベル付の作業を、必要に応じて何回か段階を上げて実施する。
  5. カードやラベルカードについての集約作業がおおむね集束した段階で「カード布置」作業を終わる。
     という方法の実質はKJ法ゆかりのプロセスですが、以下に示す数量的分析を行うために、いくつかの理論的考察と実際的方法を付け加えていること、また、カードやラベルカード同士の「関連性」を判断することに基づく質的アプローチという意味で「関連性評定(に基づく)質的分析」と呼んでいます。

     *言語資料の「要約」に該当する以上の作業において、「関連性」とは基本的に「意味内容の類似性」を指しています。「要約」段階に引き続く「解釈」に関わる段階では、「関連性」は類似性に限定されず、因果性・帰属性・条件性・推移性・並行性などといった多様な意味で用いられます。詳細は論文(葛西,2008)をご覧ください。



    さて、カード群の空間配置に基づいて、次のようにして分析を進めていきます。
  6. カードとラベルの対応関係を表す{1,0}からなる「対応表」を作成する。
  7. その対応表を「林の数量化理論V類」によって分析する。
  8. その対応表を「長田の形式概念解析」によって分析する。
 数量化理論V類はしばしば類比的に「質的因子分析」と呼ばれることがあり、ラベルの相互関係をいくつかの 次元軸上 に位置付ける方法です。また、長田博泰氏(札幌 学院大学社会情報学部社会情報学科教授)によって開発されている「形式概念解析 (FCA: Formal Concept Analyasis)」プログラムは、ラベル間の構造を「概念束 concept lattice」として論理的に把握して図示することができます。

*最近の研究に基づくと、「形式概念解析」は、時間経過に関わるテーマ、例えば、発達的な内容や、何回かの面談の経過などを質的に分析する「概念的時間シ ステム解析ツール」としても使えます。(3/28,2007追記)

 こうした数量的な解析を参考にすることで、研究対象としている逐語録などの言語的資料について、その意味的な構造の「要約モデル」を、 より的確に提起す ることができます。


  • 「関連性評定質的分析 の実際 について」 2007, 3/9
    ( 「文中の数量化理論V類による図についての補 足」  (追記 3/14,2008)


    「実 際について」 例 「質的アプローチについての 感想は?」
    middle

    カー ド間の関連性評定に基づくカード布置の例

    *これはあまり良いカード集約の例ではないですが、とりあえず、この集約を例として使うことにします。このカード集約の問題点は、カードのラベル付けが「類似性」の範囲に留まらず、ラベル間の関係を意識してしまい、そこに「因果関係・推移関係・条件関係」などの要素が加わっているためです。その結果、ラベル付けに解釈の要素が強く感じられます。本来、そうした「解釈」は軸の分析を終えた後にする方が良く、カード集約のラベル付けではそうした方向に走らないようにする必要があります。(追記 10/6, 2012)



    カードやラベルの「カード布置」からの以下の「対応表」を作成する。



    対応表を数量化V類で分析する。


    対応表を形式概念解析によって分析する。
    [形式概念解析サイト]





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「関連性評定に基づく質的分析」サイト
葛西俊治, 2007-2020