-更新 7/27,2019-




「関連性評定質的分析(KH法)」コメント・コーナー

 葛西 俊治
 (元・札幌学院大学心理学部臨床心理学科教授)


KH法を用いた研究・発表など [戻る http://www.relak.net/psy/kasai/ ]

研究者が一人か複数か、研究対象となる資料が単数か複数かに基づいて、KH法では次のように研究形態を分けています。第一形式は、いわゆる質的アプローチの究極の形ともいえる研究形態であり、たとえば、病跡学などではこの第一形式となるか、あるいは複数の資料を用いることが多いことから第二形式という位置づけになります。

第三形式は、言語的資料を極めて厳密に分析していく際にとられる研究形態で、実際にこうした形態になることは極めて限られているといえます。
なお、表面的には「一人の研究者」が担当している「第一形式」の研究であっても、指導者や共同研究者などによって適宜、指導や指摘を受ける状態での研究は、状況的には第三形式的な意味での「第三者性」あるいは「トライアンギュレーションtriangulation」を含んでいると考えられるため、実質的には(潜在的に)「第三形式」となっている場合があります。

第四形式の研究は、<複数者から得られた複数の言語的資料>を対象とするものです。すなわち、ある研究テーマについて「一人の対象者から一つの言語的資料を得る」ことにして、そうした(複数者からの)複数個の言語的資料が研究対象となるわけです。アンケートの自由記述を複数者から得てそれをとりまとめて扱う形式もこれに該当します。
(「一つの言語的資料」とは、「ひとまとまりの…」という意味で、KH法「カード布置」の対象となる「ひとまとまりのカード群」を「一つ」と捉えています。)
  1. 第一形式 「一人の研究者が、ある一人を対象として、<一つの言語的資料>に基づいて行う」
  2. 第二形式 「一人の研究者が、ある一人を対象として、<複数の言語的資料>に基づいて行う」
  3. 第三形式 「複数の研究者が、ある一人を対象として、一つの資料に基づいて行う」
  4. 第四形式 「一人の研究者が、<複数者から得られた複数の言語的資料>に基づいて行う」
なお、研究形態としてよく用いられる第四形式では、少数事例を用いる場合と多数事例による研究とがあるため、以下で説明を加えています。

第二形式・第四形式における「少数事例・多数事例での分析の要点」


     学 会 な ど 発 表 

  1. 佐野友泰・浦田暁菜 「バウムテスト・S-HTP法の地域差に関する検討― 北海道・沖縄学生の相違と居住年数による影響について」
    第37回日本芸術療法学会発表抄録集,p.46, 2007
    [KJ法的カード化空間配置・数量化理論T類]

  2. 二本柳玲子「血液透析を受ける女性の体験の一考察〜関連性評定質的分析(KH法)を用いて〜」
    日本看護研究学会北海道地方会 2008
    [KH法第一形式(対象者1名)・数量化理論V類]

  3. 上平悦子・佐伯恵子・木村洋子「妻を介護する夫の希死念慮と介護生活における思い」
    日本精神保健看護学会第18回大会 2008
    [KH法第一形式(対象者4名)・数量化理論V類]

  4. 佐野友泰「コラージュの作品印象と制作感想に関する検討」
    日本心理臨床学会第27回大会発表論文集(掲載頁:8月頃決定). 2008
    [KH法・数量化理論T類]

  5. 葛西俊治「面談時における優先コミュニケーション・チャンネルの基礎研究
    ― 関連性評定質的分析を用いて ―」
    日本人間性心理学会第29回大会発表論文集,208-209, 2010
    [KH法第四形式(対象者17名)・数量化理論V類]

  6. 石原由宇「青森県立中央病院における臨床心理士の認知度と期待される役割について」
    第29回日本総合病院精神医学会, 2016

     論 文 な ど 

  1. 大鳥富美代「2型糖尿病患者における自己管理行動と問題解決スキルの関連性について」
    大阪府立大学大学院看護学研究科(修士論文)2007
    [KH法第四形式(対象者105名)・数量化理論V類・数量化理論T類]

  2. 畑野美智子「子どもを亡くした母親の悲嘆に関する研究―中年期に一人しかいない子どもを小児がんで亡くした母親との面接を通して」
    札幌学院大学大学院臨床心理学研究科(修士論文)2007
    [KH法各第一形式(対象者3名)・数量化理論V類]

  3. 川村幸大「大学生の援助行動を規定する要因に関する研究―関連性評定による質的分析と多次元共感性分析による量的分析から」
    札幌学院大学大学院臨床心理学研究科(修士論文)2008
    [KH法第四形式(対象者100名)・数量化理論V類・数量化理論T類]

  4. 竹内恵「セクシャリティにおける悩みと羞恥心に関する基礎研究―大学生へのアンケート調査とピアエデュケーション経験者へのインタビュー調査を通じて」
    札幌学院大学大学院臨床心理学研究科(修士論文)2008
    [KH法各第一形式(対象者3名)・数量化理論V類]

  5. 白銀千代実「初心セラピストの経験内容と経験過程に関する逐語録に基づく研究―初回面接の陪席経験を通じて」
    札幌学院大学大学院臨床心理学研究科(修士論文)2009
    [KH法第四形式(対象者5名)・数量化理論V類]

  6. 頓所あかね「スクールカウンセリングにおける連携についての研究―スクールカウンセラーから見た連携の構造とその要因の把握を通して」
    札幌学院大学大学院臨床心理学研究科(修士論文)2009
    [量的研究12名、KH法第四形式(対象者6名)・数量化理論V類]

  7. 二本柳玲子「血液透析を受ける女性の体験の関連性 −関連性評定質的分析(KH法)を用いて−」
    「腎臓」第33巻第2号 130-136, 2010
      [pdfファイル追加]
    [KH法第四形式(対象者14名)・数量化理論V類]

  8. 美馬千秋・葛西俊治「腕の立ち上げレッスンにおける身体心理的体験の構造― 関連性評定質的分析に基づく研究」
    ダンスセラピー研究、Vol.6,No.1, 17-28, 2012  [pdfファイル追加]
    [KH法第四形式(対象者14名)・数量化理論V類]

  9. 平田幸男 校内授業研究会における教師の思考の分析―
    教師の「語り」の分析における関連性評定質的分析法の妥当性―
    教育実践学研究、第16巻第2号 2015

  10. 平田幸男 関連性評定質的分析法による授業研究会の議論の分析―
    小学校における総合的な学習を事例として―
    日本教科教育学会誌、第38巻第4号 2016

  11. 平田幸男 関連性評定質的分析法による授業研究会の機能の分析に関する研究
    兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士論文, 2016

  12. KH法を用いて研究を進められている平田幸男准教授(至学館大学健康科学部こども健康・教育学科)が私の大学まで見えられました。そして、KH法を用いた2015年・2001年の論文をもとに博士論文としてまとめられたのことで、参考としてその写しを頂きました。

    KJ法と数量化理論3類を用いる質的なアプローチをKH法としてまとめてきた立場から読ませて頂きました。まずは研究の進展に貢献できた様子がうかがえて大変嬉しく、またKH法の位置づけについては、質的分析として一般化に向かう傾向のあるGTAと比較して、KH法は現場などでの実践の詳細を把握するのに適していることも読み取ることが出来ました。今後も、現場での実践を深めるための研究ツールとしてKH法を用いる研究が続くとともに、川喜多二郎のKJ法と林知己夫の数量化理論(3類)―。この二つが消えていかないように願うばかりです。

     なお、カードとラベルの構造を可視化するのに役立つ「形式概念分析」ソフト(長田博泰 札幌学院大学元教授)を、今後の研究に役立つことがあればとお渡しいたしました。
     ※ソフトは「改変しないこと、論文などではクレジットを載せること」を条件として自由に使って良いと許可を得ています。
    (6/16, 2018)