札幌ダンスムーブメント・セラピー研究所



慢性腰痛を癒やすダンスセラピー!

少し引用いたします…。
 ― 日本形成外科学会と日本腰痛学会が、腰痛の発症や慢性化には心理的ストレスが関わっており、画像検査などでも原因が特定できない腰痛が大半を占めるというガイドラインを発表した。主要な理由とされた「心理的ストレス」については、より正確には、仕事や作業における慢性的な腰痛喚起姿勢とそうせざるを得ない社会的文化的要因および本人の性向や価値観などの心理的側面、さらには、身体に関する誤解や誤った習慣などによる身体使用の誤りなど、より正確に関連要因を記述すべきと思われる。


 最近、慢性腰痛の新たな治療法についてNHKの特別番組で紹介されました。
   [ 腰痛治療 革命! ]
 
 簡単に解説すると、
  • 痛みをきっかけとして不安や恐怖が続くと、痛みや不安を抑える脳の機能が低下する↓
  • 痛みや不安を抑える脳の機能(DLPFCという部位)が低下するので、痛みを強く感じる↓
  • そのため、痛くなるような姿勢や使い方に不安や恐怖を感じるので、そうした姿勢をしなくなる↓
  • そうした状態が続くと、不安や恐怖を抑える働きをしている脳のDLPFCという部位の機能が縮小してしまう…
 ということなので、いわば「心理的な」悪循環の中で慢性腰痛が長引く…ということでした。
 
 そうした慢性腰痛のほとんどが、「腰や脊椎や椎間板などに医学的な問題がない!」ので、外科学会も腰痛学会も「私たちには手に負えない<心理的な問題>…」と判断したわけです。確かにその通りで、腰には問題がなかったのです。
 
 問題は腰にではなく何と「脳の機能」にあった! 専門的には「脳のDLPFC部位の働きが低下している」という脳の働きによって慢性の痛みとなっていたことが分かったのです。
 
慢性腰痛によって
 不安を抑える脳機能(DLPFC)の低下を招く  
 

 NHKの特別番組ではこうした慢性腰痛の治療法として「認知行動療法」(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)の例を紹介していました。一日数時間、二週間の訓練でほぼ全員が慢性腰痛から解放された様子は感動的ともいえます。
 
 認知行動療法では、脳のDLPFC部位の働きの説明などを含めた心理教育を施します。その後で、階段を上り下りしたりなどの動作・行動を行います。最初は不安と恐怖のためパフォーマンスは低いのですが、少しずつ改善して、回数や高さや速さなどが向上していくことを自分自身で確認していくことができます。
 そうすると段々自信がついてきて、以前にはできなかったような姿勢や動きが試してみることができるようになります。そうしたトレーニングを続ける中で、(1)不安と恐怖でできなかったことが少しずつできてくる、(2)少し自信が持てるので挑戦するようになる、という状態を経過して、(ある程度の日数が経過すると)、(3)痛みを感じすぎない方向に脳機能が改善する、という流れができてくるわけです。
 
 さて、いよいよ、ここからダンスセラピーの登場となります。

 ※注意点
 以下のように「痛み」を扱うダンスセラピーは、本研究所の二名のダンスセラピストがそうした領域での経験を積んできたことによります。専門的には「身体や痛みの限界を越えることなく、痛みの閾値をコントロールしながら、痛みの感覚を探索する技術」に基づくことではじめて可能となっています。

 
   理論的な内容は後回しにして、実際にあった例を説明します。
 いずれも、「痛みへの心理的対処と身体的なコントロール」、この二つの要素からセッションが構成されています。
  • 夏休みに一週間ほどの舞踏の集中的ワークショップには、毎年、海外からの参加者もおります。その多くはダンサーやダンス経験を持つ方ですが、慢性腰痛や膝痛に苦しんでいる方もおります。セッションでは「腰痛になりにくい姿勢」について説明して試してもらっていますが、さすがに身体のことをトレーニングしてきているので、短時間でコツをつかむ方が多いです。
     ポイントは、野口体操で言う「ソヘ」―「ヘソの反対の背中側の部位」― そこをつぶすような「ソヘ返る」姿勢をやめることです。空を見上げながら上空に向かって両手を大きく拡げるような…ダンスなどでよくある姿勢、その難点に気がつくことです。
     少し説明すると、仰向けで横になると、背骨の腰椎の部分が床から少し浮いて隙間ができる姿勢になります。それが極端に隙間が出来ているとき、腰椎は「ソヘ返っています」(尾てい骨が下後方に引かれた姿勢…)。その状態が腰痛になりやすい姿勢なのです。したがって、腰椎の背中側がそのように短く圧縮されたまま放置するのではなく、長くなるような姿勢と、その姿勢での動き方を見つけ出すこと―。
     そのためにはどうしたら良いか? 腰痛部分となる腰椎の背中表面側が長い状態で使えるようにするためには― ボディラーニングのレッスンとしては立ち上がった立位の姿勢で「膝を曲げること」から始めます―。と言っても、これで伝わるかなあ…。

     ※このような説明では、言葉の意味や説明内容も十分ではないし、読む方によって様々な解釈がまかり通るので、私が意図したように行われる…とは限りません。したがって「書いてある通りにしたけれどもうまくいかなかった…」方は、ご自身の解釈とその実施方法によって「そのような結果になった」と承知していただければと思います。
     長年、そうした実情に接してきたため、言葉だけで説明しないようにしています。しかし、少しは書いておかないとあまり分かってもらえないので、渋々(^_^; 書き記すことにしましたが、はてさて…。
     
  • 腰痛で苦しんでいるダンサーでしたが、「腰には医学的な問題がない…」ということでした。しかし、本人は痛みに苦しんでいるので、「痛みの限界の内側で動く」ムーブメントのレッスンを体験してもらいました。痛いところまでは動かさないことは、ダンスの訓練を積んできた方なのでかなり得意で、痛まない範囲で動いているうちに動きや角度の微妙な変化を感じとれるようになりました。その結果、元々あった痛みの有無とは関係なく、微細なコントロール能力によって、痛みもなくほとんど問題なく踊れるようになりました。
  •    
  • 仕事で撮影する方が、低い姿勢や横にねじれた姿勢などで撮影しているうちに腰痛がひどくなっていました。腰痛になりずらい姿勢をダンスセラピーで習い、腰が大丈夫な時にそうした動き方練習していると、知らないうちに腰の可動域が増えて通常の撮影には差し支えないほどになりました。
  •  
  • ある中年男性は数年前から肩が痛くて上がらずリハビリを続けていました。知り合いに誘われてダンスセラピーのセッションに参加したところ何だか楽しく、一緒に動いたり踊ったりしているうちに、気がつくといつもは上げられないところまで腕を上げてしまっていて、みんなに驚かれてしまいました…。
     *四十肩などの痛みは、動かすことで改善されるケースが医学的にも知られています。
  •  
  ※注意点
 これらの例はいずれも「慢性の痛みで、かつ医学的な問題がない」場合に限っています。身体に痛みがあるときは、まず専門の医師の診断と治療を受けて下さい。このコーナーの説明は「身体の当該部位に外科手術などが必要な変形やその他の重大な問題がない」場合に限っています。

 

 
 ダンスセラピーをどのような「セラピー」として位置づけるかによって、ダンスセラピーは実に様々な内容をもつようになります。
   
 「痛みに関わるダンスセラピー」は、リハビリという概念ではなく、
 「人は、身体をもち、心で感じて生活している」という基本に基づくアプローチです。
 心身ともに健やかでいたい、少しの間でも素敵な時間を生きていきたいと願うこと…。
 このことを、「ダンスあるいはムーブメント」を通じて実現しようとするアプローチが「ダンスセラピー」です。

 
 ※正確にはアメリカでは「ダンスムーブメント・セラピー」と呼び、イギリスでは「ダンスムーブメント・サイコセラピー」と呼んでいます。(D/MT : Dance Movement Therapy、またはDMP : Dance Movement Psychotherapy)

 以上、新しい展開の一つとして「痛みに関わるダンスセラピー」を紹介いたしました。
※動きや姿勢については、日本の舞踏に関わる屈曲的な姿勢や動き方を用いてレッスンを構成しています)


*左側にフレームが表示されていないときは、上をクリックしてください。↑

札幌ダンスムーブメント・セラピー研究所


〒063-0803 札幌市西区二十四軒3条4丁目6-7 栄輪ビル3F
竹内実花BUTOH研究所気付