札幌ダンスセラピー研究会 2002



  ダンスセラピーについて  

  12.アウトリーチ活動としてのダンスセラピー  <コミュニティとアーティストの交流>
「刑務所でのダンスセラピー」の項目で、アメリカの刑務所でダンスセラピー的活動を行っているパット・グラニーカンパニーのことを書きましたが、3月2日(土)東京の森下スタジオで行われたパットさんによるレクチャー「ダンスと社会を結ぶために」の中で、特にアメリカでの「アウトリーチ out-reach 活動」についての解説がありました。

アウトリーチとは、ダンサー・音楽家・俳優・画家などの芸術家(以下、アーティストと書くことにします)が、
アートに接する機会の少ない地域やコミュニティに入り、
そこの人々とアートを通じて交流する活動
のことをいいます。

パットさんは「プリズン・プロジェクト キーピング・ザ・フェイス keeping the faith」を1992年から開始し、受刑者の人達に毎年3ヶ月間、ダンス・作文・美術のワークショップを行い、参加者達が創り出したダンス作品を一般観客を交えた中で上演するという活動をしています。
今回、「ダンスと社会を結ぶために」というタイトルで、プリズン・プロジェクトの始まりと展開、その内容についての解説とともに、「アウトリーチ」という事柄についてアメリカにおける詳しい状況を知ることができました。
内容としては「アーティストによる社会的な貢献」ということなのです。
  • ダンサー・音楽家・俳優・画家などの芸術家による、コミュニティに対する活動であること。
  • アーティストが財団などから助成金を得る際、アウトリーチ活動の有無とその内容が重要な要素となっていること。
  • 刑務所や少年院などの矯正施設に限らず、学校や病院を含む様々な施設での活動が含まれていること。
  • コミュニティの人達がアートを通じてアーティストと交流することによって、より生き生きとなるばかりでなく、コミュニティの活性化や町づくりにもつながること。
すでに「11.山海塾舞踏家・岩下徹によるダンスセラピー」に書きましたが、新冠町で行われた活動は、まさにこのアウトリーチ活動の一例ということができます。つまり、コミュニティの人達はアーティストとの交流を通じて、日常的なしがらみからしばし離れてより広い世界に身をおく…という新鮮な視野と体験を得ることができるのと同時に、
実は、アウトリーチ活動をするアーティスト達は、様々な場所で様々な人達と触れあうことによって、そのアートの中だけでは決して得られないような新鮮な体験をすることが多いのです。そして、それはアーティストによっても自らの芸術や技能をさらに展開させていくためのきっかけともなるのです。
二年ほど前に、ダンサー・勅使河原三郎が盲目の外国人と一緒に踊った作品が発表され話題を呼びました。作品についてはいろいろな解説などもありますが、大事な点は、盲目のその人と踊ることがアーティストとしての勅使河原三郎には非常に意味のあることだったし、同時に、初めて舞台で踊ることになった盲目のその人にとっても新鮮な体験となった…という相互的な関係があった、ということです。

●ダンスセラピーの二つのアプローチ

そうすると、ダンスセラピーには大きく分けて二つのアプローチがあるといえるでしょう。
  • 心理療法として(将来的には資格取得を前提とする…)のダンスセラピー
  • アーティストとして、アウトリーチ活動結果としてダンスセラピー
つまり、前者はアメリカダンスセラピー協会が立脚するあり方であり、現在、日本ダンスセラピー協会が実現に向かって努力している方向ですが、それと同時に、岩下徹が行ったようにダンサーがコミュニティの人達と触れる中で「結果としてのダンスセラピー」が実現していく…という二つの流れがある、ということです。

心理療法的な意味でのダンスセラピーは、a)「個人に集中する分、内容が深い」という傾向があるとすれば、アウトリーチとしてのダンスセラピーは、b)「多様な人達に対して多様な場で、セラピー的な効果を実現する」という大まかな違いがあるかもしれません。

私が、アメリカの女子刑務所で舞踏を踊ったときには、確かに b)「アウトリーチとしてのダンスセラピー」だったでしょうし、また、ディケアやワークショップの場での活動は a)「心理療法的な意味でのダンスセラピー」だと言えるでしょう。
つまり、この二つのアプローチは「どちらか一方」という場合もあるし、時々に応じて、二つのアプローチが登場することもあるわけです。その意味では、対比的であるのと同時に相補的でもあるわけです。

話題は変わりますが、日本の学校はいよいよ「週休五日制」に入っていきます。昨今の話題の一つして「土曜日に何をしたらよいのか」というテーマがあります。
これは、学生本人や親だけの問題ではなく、地域や町や行政が、休みとなる土曜日にどこで何を提供できるのか―。新たなプログラムをどう作っていくのか、ということなのです。

塾やスポーツ、様々な娯楽…。そういう既存の選択肢だけではなく、新たに「コミュニティとアーティストによる交流」=「アウトリーチ活動」が注目されてきているのです。そして、広い意味での「ダンスセラピー」活動もその一つとして、文化活動や町づくり・町おこしにおける重要な役割を担ってきているのです。

*無断転載禁止   (3/7,2002掲載 葛西俊治記)