札幌ダンスセラピー研究会 2002



  ダンスセラピーについて  

  11.「山海塾」舞踏家・岩下徹によるダンスセラピー  
 2002年2月22日(金)と24日(日)、北海道の太平洋側にある新冠町「レ・コード館」で、世界的に有名な舞踏グループである「山海塾」、そのメンバーの岩下徹氏によるダンスセラピーのレッスンが行われました。幸いにも、私と竹内実花さんがセッションに参加し補佐をする機会を得ましたので、岩下さんによるレッスンを紹介しておきたいと思います。

2月23日(土)、「舞踏家・岩下徹+墨絵画家・杉吉貢+現代音楽家・畑中正人」の三人の競演・コラボレーションが、同「レ・コード館」にて行われる企画があり、その前後に、ダンスセラピーのセッションが企画されたという状況でした。
以下では私個人の感想を述べることにします。岩下さんの見方や感じ方を書くわけではないので、誤解のないようにお願いいたします。

●2月22日(金) 高齢者とのワーク

 琵琶湖のそばにある精神科の病院、湖南病院で岩下さんが10年以上も行ってきているレッスンをするとのことでした。その日の対象は高齢者で、14-15名の参加者(全員女性!)が参加して、レ・コード館のステージ(床が木製で少し柔らかい)を使ってレッスンが始まりました。なお、小さな男の子と、もっと小さな女の子を連れたお母さんも参加しました。

  最初は「床に転がる」ことから始まりました。楽な姿勢で床に寝そべること―。のんびりと時間を使って身体をなじませていきます。次に「座る姿勢まで起きてくる…」途中で、また、のんびりダラダラとまた床に寝転がります。
 何回か繰り返してから、今度は座る姿勢から「立ち上がる…」ところで、また崩れて床に寝そべり、寝転がっていきます―。

 このようなレッスンにはいくつか目的がありますが、その一つは、「身体の重さを感じること・脱力していること」を中心におく「野口体操」的な体験を積み重ねることだと言えるでしょう。
 のんびりと寝そべってゴロゴロしているうちに、自然に「体の重さを感じる」ようになるし、無駄な緊張がとれてくることになります。そして、床に寝転がる―というヨコに長い姿勢でのバランス、立ち上がった際のタテに伸びた姿勢でのバランス。この二つのバランスの移行のレッスンとも言えます。

 動き方や身体的な感覚のレッスンとも言えますが、身体の時間が少しずつ遅くなるとともに、リラクセイションに伴う心理的な変化も伴ってきます。今回は前半一時間、後半一時間の構成なので、心理面での変化が顕著にでるためにはちょっと短い感じでした。
 いずれにしても、このようなレッスンの中で、少しずつ身体と内面との穏やかさ静かさが得られてきます。

注) ホールの床のピータイルよりはステージの木の床の方がましでしたが、寝転がるレッスンのためには、できればカーペットとか畳などの用意があればベストです。最善の環境で行うのはなかなかに難しいものです。

(いくつかのレッスンについては省略します)

 後半は、二人が組になって交互に行う「肩たたきや背中さすり」といった展開がありました。ヨコになってもらって身体全体を揺らすレッスン…。両足首をもって両足を一緒に左右に揺する金魚運動…(これは元々「野口体操」の中では「寝にょろ」と呼ばれているものです) 。などなど。

 こういったような準備の後に、穏やかなピアノ曲が流れる中で、相手の人の手をとってゆっくりとリードする…という展開が始まります。そのうち、二人とも立ち上がり、一人が相手の手や肘をリードしたり、肩や背中を軽く押したりしながら、二人がゆっくりと動いていきます。
 一人がリードし、もう一人が相手のリードにゆっくりとついていく…。これだけのことなので、たぶん、動いている二人は気がついていないかもしれませんが、横から見ていると、すでに「二人の踊り」になっているのです!

 穏やかな関わりと、そこから立ち現れてくる二人の「踊り」…。誰も踊っているとは気がつかないままに…何人かは、じきに気がつきましたが…静かで素敵な時間が流れていきます―。

 そこには、社交ダンスや盆踊り、あるいは日本舞踊…などとは明らかに質の違う「動き」や「関わり」や「時間」や「身体」がありました。
 「…セラピー」として次にどのように展開するのかな…と思うあたりで、残念ながら時間がきてしまいました。
 参加者に対してここに書いたような解説はありませんでしたので (セッションのことについてはあまり説明しないことが多いです)、参加された方は、「よく分からないけれど…何か不思議に穏やかで楽しい時間だった」と感じられたのではないかと思います。

●2月24日(土) 小学生とのワーク

 この日は、新冠の劇団に所属しているという小学校の子供達20名近く(全員が女の子、だいたい5-6年生)が参加しました。レッスンの基本的な内容は、前回とほぼ同様だと言えますが、元気でコロコロと笑い転げる女の子たちと、お姉さんと妹、そしてコマネズミのように走り回る小さな男の子の三姉妹弟が参加し、表面的には同様なレッスンでしたが内容的にはかなりの違いがありました。

気がついたことを箇条書きにしてみると―
  • あまりにも元気なので、穏やかに身体を感じていくレッスンがあまり届かなかったこと。
  • その結果として、身体の感覚が深まる…という進展が全体的に少なかったこと。
  • それでも、コマネズミのように動いていた男の子が、後半から穏やかに場にいられるようになったこと。
  • 友達仲間に入っていないような女の子は、自分の身体を感じて動く体験を静かに味わっていたこと。
  • 何人かの女の子達は、ずーっと友達同士での、いわば「関わりの呪縛」に囚われていて、呼吸が深まることがなかったこと。
などなどがありました。

 2時間のレッスンによって最もはっきりしてことは、参加していた女の子達の問題(一人一人がもつ問題についてはまだもう少し時間が必要)が、どんなところにあるのか…ということでした。
ここから、その「問題」に沿って、ダンスセラピーとしての次のレッスンを組み立てていくことになるでしょう。
 いずれにしても、2時間のレッスンの後では、「全体的にみれば―」、呼吸が一定程度は深くなっていたこと、穏やかさと落ち着きがでていたこと、そして、人との関わりにおいて粗暴さが薄れてきたこと…等々の変化を指摘することができるでしょう。


 この20年近く世界中のあらゆる場所で公演をしてきたプロのダンサーとしての岩下徹、10年以上の間、精神科の病棟でダンスセラピーを行い、昨年はフランスのラボルドという所にある精神病院の中で患者さんと即興ダンスを踊った岩下徹には、当然ながら、私がここで指摘した以上の感想やコメントがあるものと思われます。

 それは例えばどういう内容のことなのか―。近刊としては、2001年11月発行の『エスプリ』No.413「表現と癒し」特集号に、文章が載っていると岩下さんが話しておりました。今回の二回のレッスンの意味を理解するためにも是非読んでみようと思っています。

*無断転載禁止   (2/25,2002 葛西記)